●2024年 9月 5日号 |
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▼8月15日に『関心領域』という映画を観ました。手入れの行き届いた庭。プールで遊ぶ子どもたちの歓声。庭の先には高い塀があり、幾棟も連なる建物が見えます ▼アカデミー賞国際長編映画賞と音響賞を受賞したこの作品は、アウシュビッツ収容所の所長ルドルフ・ヘスの家族の日常を淡々と映し出します。しかし塀の向こうの様子は一切描かれません。時折、犬の吠える声や大勢の人が駆ける足音、悲鳴のような音が風に乗って聞こえ、向こうの煙突から黒い煙が立ち上る以外は ▼職場で思いがけない退職の申し出に驚いた経験があります。個人面談では気配すら感じなかったのに、なぜなのだろう。本人の不誠実さをなじりたい気持ちと、相談しやすい関係性をつくれていなかった反省が交錯しました ▼そうか、関心領域か。余裕が持てなかったり何かを恐れたりしていると、見えていても目に留まらず、聞こえていても耳に残りません。一緒に仕事をしていると理解し合えていると錯覚しがちですが、問われているのは、私の関心領域という気がしてきました ▼愛の反対は憎しみではなく、無関心である―自身がアウシュビッツに収容された経験を持つエリ・ヴィーゼルの言葉です。 「中小企業家しんぶん」 2024年 9月 5日号より |
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